PERFUME GEMIUS 10.JUNE.2015■ROYAL FESTIVAL HALL LONDON
ロンドンのテムズ川南岸にあるサウスバンク地区(SOUTHBANK)はクラシック・コンサート・ホールや劇場、映画館が立ち並ぶ、イギリス・アートの発信地ですが、以前の南ロンドンといえば治安が悪く、ナショナル・シアターで演劇を観た後もさっさと立ち去りたくなるような地域でした。ところが最近では再開発が進み、天気の良い休日ともなれば地元の人から観光客まで訪れて、食事や散策を楽しむ賑やかな場所になりました。
そしてその中心的な建物がロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地であるロイヤル・フェスティバル・ホール(ROYAL FESTIVAL HALL)。日本のガイド・ブックでも「ロンドンでクラッシック・コンサートを楽しむならココ!」と必ず紹介されているほどの老舗コンサート・ホールですが、でも私たちが観に行ったのは、USシアトルに拠点を置くオルタナティブ・アーティストのパフューム・ジーニアス(PERFUME GENIUS)!! ちょうどイギリスでも話題になっていた3rdアルバム「Too Bright」は、Lo-Fiでノイジーなのに、ヒリヒリするような繊細さと不安定さが同居した素晴らしい作品でした。そんな音楽の彼がクラシック・ホールでライブをやるなんて聞いたなら、観に行くしかないよね?
早速フェスティバル・ホールのオフィシャル・サイトでチケットをチェックすると、1階席はすでにソールド・アウトでしたが、2階はまだまだ余裕。なのでズルズルと購入を先延ばしにしていたら、突然、ステージ真横のバルコニー席のチケットがポロっと販売されていたので慌ててそれをゲット!ホールの会員向けのチケットがキャンセルされたのか。ともかくラッキーでした。
そのバルコニー席からはこんな感じの眺めでした
そしてライブ当日。陽が長いイギリスの初夏を楽しむ人たちで賑わうサウス・バンクですが、食事をしておきたいけど店に入るほどの時間が無いので、サンドイッチでも買うか、とホールの売店を覗くと、売店のくせに"Soup of the Day"なんて売っていてなかなか本格的。大好きな"Cheese & Pickle(チェダーチーズと酸っぱいチャツネが挟まれたイギリス独特のサンドイッチ)"とスープを注文したら、デカいクルミ入り丸パン付きのスープ・セットだったとは。食えるか?この量?(汗)
「まずい」と定評のあるイギリスの食事ですが、そんなのン十年前の話し。このサンドイッチもパンもスープも美味しくて、ゆっくり全部食べてしまいたいのに、そこに開場を告げるアナウンスが(汗)2008年にこの会場でTindersticksのライブを観た時(その話はこちらで→)演奏が始まると会場のドアを閉められ出入り禁止となっていたのを思い出し、一応サポート・バンドも観てみたいので焦るっ!隣でシチュー・セットを食べ始めたばかりのニイちゃんも大慌てでパンをワインで流し込んでました(苦笑)。
リフトで2階に上がると、係が席まで案内してくれるなんてクラシック・ホールならでは。そして席もほぼステージ横の4人掛けのバルコニー。こんな席で観るライブもたまには良いもんですね。
と、会場の雰囲気に浸って良い気分だったのに、ノルウェーから来たというサポート・バンド、Jenny Hvalがイマイチ・・・シンセ2台と打ち込みをバックに女性ボーカルと、床に寝転がったり、iPadで自撮りした自分の顔をスクリーンに映し出しだす2人の女性パーフォーマー。でも音楽からパフォーマンス、何だか全てが「いかにも前衛」な感じが・・・正直つまんねぇ・・・。スープを味わう間もなく急いで食べたのに、これを最後まで観ろと??そりゃ拷問だろ(涙)と思いきや、一階席の観客がぞくぞくと外へ出て行く。あれ?退席OKですか??このバンドなら再入場不可でも構わないっ!と、ロビーへ退却。この日は(とりあえずサポートのパフォーマンス時間は)出入り自由になってました。
このホールはテムズ川沿いに建っているので、Purfume Genius待ちの人たちがベランダやロビーで川から流れる爽やかな風を浴びながら気持ちよさそうにビールを飲んでる。ついつい釣られてビールを買い、川岸のビッグ・ベンやロンドン・アイ、サボイ・ホテルなどなど、"これぞロンドンっ!"と言いたくなるような風景を眺めながらビールをチビチビ飲んでいると、ロンドンの初夏を満喫って気分だなぁ・・・って、違うぞ!Perfume Geniusのライブを観にきたんだってば!(苦笑)
またバルコニー席へ。4人掛けバルコニーなので、どんな2人が来るのか少々ドキドキでしたが、物静かなカップルでした。
そして少しぎこちなく笑顔を浮かべながらバック・メンバー達とステージに現れたのがPerfume Geniusことマイク・ハドレアス(Mike Hadreas)。エナメルのヒール靴に短めのパンツ姿の彼は想像してたよりずっと小柄で、フルオーケストラがセッティングできるような広いステージ上ではまるで子供のように幼く見えるのに、オープニングの「My Body」で彼が歌い始めた瞬間、ホール全体の空気が一変。まるで一瞬にして彼に捕らえられたような不思議な感覚。この見るからに内向的な青年の声が持つパワーに思わず息を飲んでしまう。席に座った2000人の観客が身じろぎもせず、赤や青のライトの中で大きく足を開いて腰をくねる彼を見つめ、会場全体に静かな緊張感が張り詰めていく。
広いステージに何の飾りも無く
彼にとっては初めての大きなホールでのライブだったそうですが、徐々にリラックスしてきたのか、はにかんだような笑顔を見せながら観客に話し掛けてました。今回は特別なライブだからなのか新旧を交えた選曲でしたが、彼の作品を最新の3rdしか聴いていないし、しかもそのアルバムが好きでライブに来たというニワカな私としては、ピアノの弾き語りで歌う過去の曲より、3rdの「Longpig」や「Grid」のようにバンドの音をバックに彼が体を捩じらせながらステージを動き回る曲の方が良いなぁ(しかも後で知ったのですが、大好きなカーディフのインディー・ポップ・バンド、Los Campesinosのメンバー、Tom Campesionsがベースで参加してました。)
とはいえ、キーボード担当と2人で1つのピアノに並んで演奏する時には子供のように彼をからかったり、ピアノを調整している時に観客から「WE LOVE YOU !」のラブ・コールがかかっても素知らぬ顔。しばらくして「あれっ?誰か何か言ってた?」なんて観客を爆笑させたりと、ピアノ弾き語りも楽しいわ(笑)
「WE LOVE YOU !」と、また改めて声がかかると、「『WE LOVE YOU 』!? 素敵だね!!」と笑顔で返していました。
そしてエンディングの「Queen」はノイジーで美しく、息もつけないような緊張感で圧巻の1曲!!
一人だけステージに戻ってのアンコールを含めて1時間強のライブは、小さなMike Hadreasの存在感と彼の美しい音楽が会場を圧倒する。そんな素晴らしいライブでした。
ライブ後は皆、バルコニーで夜景を眺めながらライブの余韻に浸ってました。ロンドンの古い建物に灯る柔らかい明かりがキラキラと反射するテムズ川。そのままバスに乗って帰ってしまうのが勿体ないほど良い夜だなぁと、耳に残るPerfume Geniusの歌をバック・ミュージックにテムズ川の風に吹かれ、トラファルガー・スクエアまで歩きました。まさにロンドンだからこそのLovelyな一夜でしたね(あ、Perfume GeniusはUSだというツッコミは無しで。)
夜のテムズ川