アラビアのロレンス 回顧展 & 足跡を巡る旅 in UK Feb/2006
クラウズ・ヒルにGO !! part 3 20/Feb/2006
管理人さんと挨拶をして、さっそくクラウズ・ヒルに案内されました。
ほんとに小さな家で、水色のドアを開けてもらい、中に入ると、まず天井の低さにビックリ。私でも天井に手が届くくらい。
入口に入ると正面に階段があって、まずは2階から案内してくれました。階段の天井も低くて「上に気をつけてください」の札がかかっていました。これはロレンスが住んでいた時のものでは無いよね(当たり前。)

扉が革張りのミュージック・ルーム
2階(というか、ほぼ屋根裏)には、バンク・ルームとミュージック・ルームと呼ばれる部屋があります。
バンク・ルーム(BUNK ROOM)は物置兼客用寝室として使われていた部屋で、丈の低い整理棚が置かれており、ここを訪れた友人はこの上で寝袋で寝ていたそうです。そしてロレンスが後からつけた船用の丸い窓があり、船底の船室を連想させるので「BUNK(船や電車の寝台)」と言われるのですが、この部屋はなぜかすべての壁にアルミシートが貼られていました。部屋中がピカピカしてる。保温のためとは思えないし・・・管理人さんは「これも船底をイメージしているんだろうね」と言ってたけど、不思議な空間だなぁ。まぁ、これで驚くような客人はロレンスと友達にはならないか。
そしてミュージック・ルームは、ロレンスが執筆をしたり、友人たちと雑談したり、音楽を聴いた部屋で、回顧展で展示されていた巨大な蓄音機は、普段はここにあるそうです。シーズン・オフだからしょうがないけど、ソファーや家具にほこりよけの布がかけられていて、それをはずして見せてはくれるけど、どうも元の部屋のイメージが湧かないなぁ。
でも管理人さんは色々なことを教えてくれて、例えば暖炉の上に付いていた棚は、ロレンスが友人達と話しをする時に、そこに立って、肘がかけられるようにしたのだそうです。
「だからこれは彼の身長にあわせた位置にあるんだよ。」
それはつまり「チビ」ってコトですか?
そして暖炉の前には黒い鉄のガードがつけられていて、カラーの花をデザインした装飾がほどこされていました。ロレンス自身がデザインしたそうで、ウイリアム・モリスが好きな彼らしい趣味だ。
そして窓の上には、当時の窓からの風景を彼の友人が描いた絵が飾られていました。その風景の面影は、今ではありませんが、大昔、その窓から見える小さな丘に、クラウスというフランスの聖人が住んでいたので、村人たちがその丘を「クラウズ・ヒル」と呼んだのだそうです。名前の響きもいいし、ロマンチックな由来ですね。ロレンスがこのコテージにその名前をつけた理由が分かる気がする。
それからちょっと驚いたのが、この家のドアは、鉄の枠に茶の一枚革が貼られた、「革製」のドアなのです。
「ロレンスは革が大好きだったみたいだからね。ここはなんでも革製なんだよ」
と、管理人さんは言ってました。
続いて下に案内されると、階段の天井の段差にも革が貼られていました。
「これもロレンスが貼ったの?」
「いや、それは後から貼ったんだ。ロレンスは大丈夫だろうけど、ここに来る背の高い人が、よくそこに頭をぶつけたからね。」
そうだね、ロレンスの背なら・・・って、ほんとにチビなロレンスだから住めたコテージなのか?(笑)
一階にあるのは、リーディング・ルームと浴室です。
ロレンスがこのクラウズ・ヒルを手にいれた時、1階はグチャグチャな状態だったので(この頃ですでに築100年程度だったそう)彼はもっぱら2階を使い、ここに住もうと決めてから、1階を本格的に修理したそうです。そのせいか、ここは2階がパブリック・スペースで、1階がプライベート・スペースなのです。

お風呂はあるけどトイレはない
なので、この浴室も新たに作られた部屋ですが、壁全面がコルク・タイル張りでまたビックリ!「これ、腐るんじゃないの?」と思ったら、案の序、ロレンスが張って1年くらいで剥がれてしまったそうで、彼の死後に末の弟からここを譲り受けたナショナル・トラストがまた元の姿を再現したんだって(でも後で考えると、コルクは腐らないんだよね?それでもお風呂の壁にはどうかな〜?)
さらに、ロレンスはこのお風呂のために、給水施設も作ってしまったんだって!それまでは近くの湧き水を汲んできていたのですが、そこから水を引いて2階のバンク・ルームの水槽に貯め、給湯器を通してお風呂に流れるようにしたそうです。ロシアから最新の湯沸かし器を取り寄せたそうで、ロレンスはとにかくお風呂大好きだったけど、そこまで心血を注ぐ(?)とはねぇ・・・。
しかもまた驚いたのが、その給水はポンプなどの電気は一切使わず、水が湧く力を利用して2階にまで上げていたそうです。いろいろ考える人だねぇ。
さらに、その水の一部が向かいの家にも届くようにして、そのお家もそれから水道が使えるようになったんだそうです。友達が来る時には、そこのおばさんに食事を作ってもらっていたりしてたから、意外と近所付き合いが上手なロレンスであります(でも多くの遊牧民の部族を取り仕切ったロレンスの才能からすれば簡単なコト?)
そしてその源泉には給水小屋を建て、そこに例のジェッダで購入した巨大な扉を付けていたんですが、木造のその施設はもう残っていません。
で、ふと気付いたのが、このコテージにはトイレがない。給水施設やバスルームまで作りながら、トイレは作らなかったんです。用足しは全て外だった・・・さすが砂漠経験者は違うぞ。
でも、このコテージにはキッチンもないのです。彼がインドに赴任している間、ここにお母さんとお兄さんが住んでいて、お母さんは一階にちゃんとキッチンを作っていたのだそうです。だからロレンスはキッチンを作らなかったのではなく、捨ててしまったということ(食事はパンと缶詰、気が向けば基地で食べていたそうです。)
そりゃあ、男の一人暮らしに台所なんていらない!と言われそうですが、でもトイレもないんですよ??つまりクラウズ・ヒルは、「食べる」「出す」という肉体の生理的欲求を一切無視した造りってコト??ロレンスは肉体を軽視していて、つねに肉体が要求することを無視していたから(つまり食欲とか、睡眠欲とか、性欲とか)このクラウズ・ヒルは、そのロレンスの思考を体現した家ってコトなのか。ちょっと感動しました。
そしてロレンスのプライベート・ルームである隣のリーディング・ルーム(READING ROOM)は、巨大な特注の革張りのベッドが部屋のほとんどを占めていました。でも、これもあくまで「読書用」のベッドで、「睡眠用」ではないのです(寝る時はここに寝袋で寝てました。)徹底してるぅ。

バンク・ルーム
日中はベッドの上で、枕元の窓から入る光で読書をして、寒い日は、暖炉の横の読書椅子に座って読書したそうです。この椅子は回顧展で見ていましたが、腰掛けの長さが妙に長いと思っていたら(中途半端にふくらはぎあたりまでありそう)ここにも暖炉の前に黒い鉄製のガードがあり、これがちゃんと椅子の高さと合わせてあるんだそうです。ここに足をのせて、そして、これまた椅子に合わせて作った書見台を肘掛けにのせて、読書していたんだって。
ロレンスが好きなウィリアム・モリスの言葉で「必要な物と美しい物以外は家の中に置くな」というのがありますが、このコテージはまさしくそんな感じです。いいねぇ。
でも・・・彼の死の直後に撮られたリーディング・ルームの写真では、壁一面の本棚に彼の本が並んでいたのに、今は全く関係のない本が少し置かれているだけで、あとはロレンスの写真などが飾られていました。なんでも2千冊あった本は、末の弟がロレンスの友人たちに譲ったり、寄付したりして、残ったものも売却してしまい、全く残っていないのだそうです。
これはちょっとショックでした。確かに建築物としてはあちこちにロレンスらしさが残っているのですが、それまで私の中のクラウズ・ヒルといえば、ロレンス展にも置かれていた薄暗い白黒写真であり、そこにはロレンスの歯ブラシや棚の上の細々したビン、大量の本、レコードがありました。でも今のクラウズ・ヒルには、そうした「ディテール」が皆無なのです。代わりに目に入ってくるのは、「触らないでください」の注意書きや、天井の火災報知器。もう「ロレンスの所有物」ではないんだと、少し悲しく感じました。無茶なコトを言ってるのは充分承知してますけどね・・・。オフ・シーズンのために家具のほとんどにシートが掛けられていたため、余計にそんな事を感じたのかも。違う時期に来れば、また印象が違うのかな?つまり、それは「また来い」と?(苦笑)

外からの日差しが明るい革張りベッド
それから外まわりを案内されました。

クラウズ・ヒルの「リーディング・ルーム」
コテージの前には同じくらいの広さの庭があり、その片隅にある小さな小屋がロレンスのバイク、ブラフ・スーペリアのガレージでした。でも中に入ったら、「ええっ!?」壁にロレンスの略歴を書いたパネルが並べられ、スピーカーからも何か朗読が流れてきました。
「こんなの、ブラフのガレージじゃな〜い!!!」
そう、まさしく観光地でよく見かけるパターン。か、かんべんしてぇ。これは耐えられなかった。ロレンスが愛して、そしてロレンスを殺したブラフのガレージがこんな状態なんて、うわぁ〜ん(涙)
「このコテージのドアの色は、ロレンスがいた頃と同じなの?」と聞くと、「いや、これは最近塗ったんだよ。元の色は知らないんだ。」と、言われました。そうだろうなぁ、ロレンスがこんな可愛い水色に塗るとは思えない。外壁もきれいな白色に塗り直されて、そのせいで、ロレンスがつけた玄関ドアの上の「Ou Phrontis」のプレートが浮きまくってる。ここだけ元のままなんだろうな。黒く汚れてボロボロになっている。このプレートのように、クラウズ・ヒルが自然に朽ちていくのがロレンスの望みなんだろうな。でも、そんなコトを言っていたら、私だって見に来れなかったんだし、残っている写真だけでは、こんなにロレンスの思考が詰まった建物だなんて感じる事もできなかった。
ごめんよ、ロレンス。もうすこしの間、私たちがあんたの骨を見て、好き勝手な事を言うのを許してね。
で、管理人さんに聞いた最後の笑い話。このコテージの裏には巨木があるのですが、枝がコテージの屋根に覆いかぶさりそうになってきたので、ロレンスはなんとその枝を、ダイナマイトで吹き飛ばしたんだって!でも、吹き飛んだ枝がコテージの屋根にある明かり取りの窓を破壊してしまい、結局は修理屋を呼ぶはめになったそう。さすがエミール・ダイナマイト(笑)
なんて、笑ったり、文句を(腹の中で)言ったり、結局2時間近くも見学させてもらいました。
あ、実はね、せっかくなので入場料を払うと言ったら、本来の2倍請求されちゃったのよ。もちろん、私一人のために休日にここまで来てもらって、長い時間付き合ってもらったので、文句は全然ないんだけど、やっぱりオフ・シーズンってのは何かと面倒なので、ここに行こうと考えてる方は、やっぱりちゃんと正規のシーズンに行きましょうね。