BBCドラマ「ロンドン・スパイ」のロケ地巡り in LONDON - part 2■AUG/2017
ハムステッド・ヒース■HAMPSTEAD HEATH
ロンドンの北西部の高級住宅地ハムステッド地区に広がる公園ハムステッド・ヒース(Hamstead Heath)。320ヘクタール(日本で言うところの東京ドーム68個分)という広大な敷地のこの公園は、ロンドンっ子たちの憩いの場所であり、「ロンドン・スパイ」にも何度か登場しているロケ現場です。
今回のロンドン旅行は、8月末とは思えないほどの暑さと晴天続き。「これは散歩がてらにロケ地探しにでも行きますか!」と、カメラ片手にこの公園へ出かけました。
キングス・クロス駅からバスに乗って、のんびりルートで公園へ。比較的平坦な土地が続くロンドンですが、このハムステッド地区は小高い丘になっているので、住宅地の中のなだらかな坂道をバスはゆっくりと登っていきます。南北に広いこの公園の、ちょうど西側真ん中あたりにあるオーバーグランド線(Overground)ハムステッド駅の前でバスを降り、さっそく公園散策へと向かいました。
ハムステッド・ヒースの森
目指すは、第4エピソードで傷心のダニーとスコッティが語り合った池沿いの道。池の周りを探せばいいんだから簡単、簡単!と、何の準備もせず、公園入口にあった地図を見てみたら・・・うっそーっ!池が10個以上もあるのかよっ!
「この馬鹿みたいに広い公園の中で、池をひとつづつ廻るの?」と、一瞬ひるみそうになりましたが、それでもまだ、この時はすぐに見つけられると思っていました・・・。
このシーンもおそらくハムステッド・ヒースだけど、探すのは無理でしょ(苦笑)
車が行き交う大通りから公園に一歩踏み入れると、そこは鬱蒼とした森でした。樹齢何百年も経ってるような巨木が小道に影を落として、街の喧騒から切り離されたかのように静かな世界。その中をゆっくりと散策する人々や、彼らの元へと駆けていく犬たち。こんな、思わず深呼吸してしまいそうな森の中にある池は、明らかにドラマに登場した場所ではないので、さっさとスルー(笑)
地図で池が並んでいた公園の東側を目指そうと思ったものの、なんとこの広大な公園の中には地図がない・・・。自分はかなり重度の方向オンチなので、入口の地図を写真に撮っておけばよかった、と、ちょっとだけ後悔。
London Spy 第4エピソード / BBC
ともかく、日が差している明るい方角へと歩いていくと、突然目の前に現れたのは広大な草原でした。荒れた土の丘の斜面に背丈の低い草が茂る。うわぁ、これぞまさにイギリスのHEATH(荒れ野)!でも、ここって・・・池のシーンの後でダニーとスコッティが歩いていたヒースでは?ならば、この斜面を登りきった丘の上には・・・!
ダニーになりきったような気分で足元の草を踏みしめながら丘を登っていくと、やっぱりそうだった!丘の上からロンドンの街が一望できる!ここはダニーがアレックスからの決別を決心した場所!あの時のダニーのセリフ、「That's what I should be doing, Saying goodbye(別れを告げなきゃ)」の声が聞こえて・・・くるには、あまりに賑やかな場所(笑)
ハムステッド・ヒースからロンドンが一望
それもそのはず。イースト・ロンドンの高層ビル群やセント・ポール寺院の丸いドームまで見えて、「ロンドン・スパイ」の名前にピッタリな素晴らしい眺望の丘なのだから。芝でくつろぐ地元っ子から、自撮りしまくる観光客まで、大勢の人たちが集まってました。
それでもこの丘の上で感じる空気はまさにドラマのまま。これでもう少しだけ太陽が傾いていれば完璧・・・って、朝から来てるのに無茶言うな!
このヒースはかなりの急斜面
おそらく、この丘の斜面を下った辺りに池があるはず。でも、方角が間違っていても、この斜面をもう一度戻ってくる気力はない(苦笑)急な斜面をゆっくり下っていくと、おっ!池があった!方向オンチでもたどり着けたっ!さっそくiPodに入れておいた「ロンドン・スパイ」の第4エピソードを再生して、池沿いの手すりの形状や、周りの風景、池の水面までの高さまで細かくチェック!
のんびりと池をまわりながら、条件が当てはまる場所を探しました。この日はBank Holiday(イギリスの祝日)明けにもかかわらず、大勢の人が公園を訪れていました。ジョギングしたり、芝の上で寝そべったり、犬を池に飛び込ませたりと、爽やかなロンドンの夏の公園だなぁ・・・と、最初は余裕をかましていたのですが、なかなかロケ地が見つからない。いくつも並ぶ池の周りを行ったり来たりしてみたのですが、柵の形が違ったり、水面までの高さが明らかに違ったり。何で?どうして??
このシーンの池を探していたのに・・・ London Spy 第4エピソード/BBC
近くのゲートにあった地図を見ながら悩んでいると、通りかかったニイちゃんに「大丈夫?どこか探しているの?」と声をかけられ、「『ロンドン・スパイ』のロケ地を探してるの!」と、iPodの画面を見せる・・・なんて、さすがに恥ずかしくて「だっ、大丈夫!」と作り笑いでごまかしてしまいました。・・・素直に聞けば良かったかな。
結局、1時間近く池の周りをウロウロしても見つからず、今回は断念!
帰国してからGoogle Mapで公園の地図を見直してみたら、公園に入った西側のゲートから南に下った辺りにもいくつか池があり、ここが怪しい!よし、次回はここを探してみよう!乞うご期待!!
ところで、この公園ではいくつかの池が遊泳可能となっていました。泳ぐにはちょっと肌寒そうだし、それほどきれいな水でもなさそうなのに、映画「裏切りのサーカス」のギャリー・オールドマン(Gary Oldman)のごとく、大勢の人たちが朝から水泳に励んでいました。そんな中には男性専用の池もあり、良くも悪くもイギリスの伝統を残してるんだね、なんて思いながら通り過ぎようとしたら、そばの芝生の上では、ビキニ・パンツ姿のおニイさん方が楽しそうに戯れながら日光浴をしてました。あっ、そういう場所だったんですね。お邪魔しました(汗)
アレキサンドラ・ロード・エステート■THE ALEXANDRA ROAD ESTATE
ハムステッド・ヒースからバスを乗り継いで次に向かったのは、同じロンドン北西部にある「アレキサンドラ・エステート」と呼ばれるアパートメントです。
これがアレキサンドラ・エステート / London Spy 第5エピソード / BBC
イギリスでは、歴史上または建築上重要な建築物を「Listed Buildings of United Kingdom(イギリス指定建造物)」に指定して保存対象としていますが、たまたまこのListed BuildingについてWikipediaで調べていた時にこの建物を発見。
「あれ?この建物って、ダニーの両親が住んでいたアパートメント??」
いやいや、ロンドンではよく似た階段状の建物が他にもあるので、決めつけてはいけない。しかしこの建物についてのWikipediaを読んでみると、おおっ!ちゃんと「ドラマ『ロンドン・スパイ』では主人公ダニエル・エドワード・ホルトの両親のアパートとして使われた」って書いてあるじゃないか!サンキュー、Wiki先生っ!
この建物があるのは、ビートルズのジャケットで有名なアビイ・ロード(Abby Road)ですが、その撮影場所はずっと南の方。この建物はスイス・コテージ駅(Swiss Cottage)から西に向かい、このアビイ・ロードと交わるあたりにあります。
なので、アビイ・ロード手前のバス停で下車。オーバーグランド線(Overground)の線路にかかる鉄橋を渡ろうとした時、この線路に覆いかぶさるかのように、サッカー・スタジアムの観客席の裏側のような建物が、ズラーッと線路沿いに並んでいてビックリ!もしかして、これがアレキサンドラ・エステート!?
サッカースタジアムじゃありませんよ
表側に向かうと、おおっ!確かにここだっ!!第5エピソードの中で、ダニーが両親に連れてこられたアパートメントだ。少々時代を感じさせるようなコンクリート打ちっ放しの外装に、この独特の階段状の建物、ダニーが降りてきた階段の青い手すりも。うんうん、ドラマで見た通りだ!・・・でも「Listed Building」に登録された建築物にしては、どこか雰囲気が荒んでいるような・・・。小さな庭は植えられた植物が手入れされずに伸び放題。階段の青い手すりは塗装が剥げっぱなし。いや、人は住んでるぞ、だって話し声がが・・・と耳をすますと、聞こえてくる会話やラジオは外国語。そしてただよってくる昼食の匂いはどこかスパイシー。後ろから走り抜けていく子供達はアジア系。ああ、そうか、このアパートメントは(はっきり言ってしまえば低所得者層向けの)公団なんだ。
アレキサンドラ・エステート
70年代に地域の住宅難を解決するために造られたこのアパートメントは、この独特の形状で必要以上の費用と時間が費やされ、当時は批判の対象となりましたが、しかしその芸術性が認められて今ではLIsted Buildingと指定されたのだそう。「芸術的」という言葉から想像するような美しい建物ではありませんが、(住んでいる人たちには申し訳ないけれど)あまり手入れされず、無機質で殺伐とした「忘れ去られた過去の遺物」といった風情が、ドラマの中でもダニーと両親との冷え切った関係を感じさせる場所でした。
私がここを訪れた時も、一眼レフ片手にこの建物を撮影して歩く女性がいましたが、この特異な雰囲気に惹かれるのか、多くのドラマや映画、音楽ビデオのロケ地としてこのアパートメントは使われているそうです。ちなみに「ロンドン・スパイ」でアレックスを演じたエドワード・ホルクロフトが出演している映画「キングスマン」にも登場しています。Wikipediaにズラリとリストアップされた映画やドラマの名前を見ていると、「ロンドン・スパイ」の撮影でベン・ウィショーがやってきても、ここに住んでいる人たちからすれば「また撮影やってるなぁ」ぐらいにしか思わなかったんでしょうね。