BBCドラマ「ロンドン・スパイ」全エピソード徹底解説! Episode 4

ここからはネタバレ注意!!

The Episode Four


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ダニー「星空の下で、目の前では焚き火が燃えている。それなのに素直に『そうだね』って答えられないのかな?」
アレックス「君の『運命の人』なら、そう答えるのか?」
携帯電話の指示に従い、ダニーが辿りついたのはアレックスと初めてデートしたレストランだった。アレックスの面影を思い出すダニーの前に現れた男は、組織からアレックスを誘惑するように命じられ、関係を持ったと執拗なまでにダニーに聞かせた。
アレックスを変えていくダニーの存在が、彼らにとって脅威だったのだとスコッティはなぐさめるが、アレックスの事を何も知らなかったと思いしらされたダニーは、アレックスとの本当の別離を決心する。
二人の思い出の海辺を訪れたダニーは、彼が残した品を燃やしながら二人の会話を思い出す。運命の人を信じるダニーと、論理的に否定するアレックス。しかし運命の人でなくてもアレックスにとってダニーはただ一人の人だった。彼のメッセージに気づいたダニーがシリンダーを「000001」に合わせると鍵が開いた。
その中身はメモリースティックだった。急いでスコッティに知らせに行くが、彼は酔いつぶれて怪我をしていた。数週間前から突然再発した鬱症状に苦しんでいたのだ。
メモリースティックの中にあるデータを解析するため、ダニーの秘密の倉庫にやってきたクレアとマーカス。アレックスの才能を崇拝していたマーカスは、その才能に無関心なダニーに苛ついていた。しかしその才能のためにアレックスが孤独だったと知っていたダニー。そしてマーカス自身も本当はアレックスの姿が分かっていたのだ。
アレックスがシリンダーに残したのは、あらゆる嘘を見抜く法則だった。しかしそれは嘘の上に成り立つこの世界では許されない研究だ。アレックスは自分の嘘がダニーに知られるのを恐れて、この研究を始めたのではないか。スコッティにそう言われ、涙を流すダニー。ダニーにとってアレックスの嘘なんてどうでも良かった。全てを知った今でも彼を愛しているのに、もはやアレックスに伝える事もできなかった。その夜、ダニーは初めてスコッティに「愛している」と伝えた。
ダニーは警察から容疑は晴れたと伝えられた。事件の幕引きをはかる警察と「まだ終わらない」と宣言するダニー。しかしダニー、クレア、マーカスがバーに集まった時、そこにスコッティの姿はなかった。スコッティからの連絡で公園へと急ぐダニー。そこには自殺したスコッティの姿があった。
私達は互いに嘘をつき、自分自身にも嘘をつく。嘘について描いてきたこのドラマで、アレックスのシリンダーに隠されていたのは「嘘の終焉」を告げる公式だった。この壮大なまでに疑わしく失望させる答えが、私の愛するこのドラマの汚点にならないようにと、あれこれと考えてみるが、なかなか容易なことではない。・・・脚本家トム・ロブ・スミスはこの「引っ掛け」を使って、インポシブルな任務を行ってきた訳だが、アレックスのシリンダーに隠された物の正体なんてそれほど気にしていない人もいるのだと、私も心に留めておくべきなのかもしれない。「それは、このドラマの中心として描かれている人と人との繋がりの上に精巧にほどこされた傷なのだ」とのコメントもあったが、しかしそれ以上の意味があったはずだ。そしてこの種明かしが腹立たしく思えてしまう。
ー ガブリエル・テイト 2015年11月30日 ザ・ガーディアン

これまで「ロンドン・スパイ」を熱烈に支持してきたザ・ガーディアンのガブリエルさんすら戸惑ってしまった衝撃的な第4エピソード。

アレックスが残したシリンダー。その暗号が解けた瞬間に唖然とするのか、涙を流すのか。

悲しみと迫害の結果、正義の探求を諦める寸前になっていたダニーは、遂にメモリー・スティックのロックを破るコードを見つけた。しかし失望させられたことに、それは000001だった。まるでアレックスは工場出荷時の初期設定から変更する気がなかったみたいだ。
ー マイケル・ホーガン 2015年12月1日 デイリー・テレグラフ

いやいや、それはない(笑)


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とはいえ、あれだけ視聴者を引っ張ってきたシリンダーを開けるコードが「000001」という、衝撃の結果に一瞬ボー然としてしまいましたが、しかし、ダニーにしか分からないアレックスからのメッセージとして、これ以外のコードなんて考えられない!これこそトム・ロブ・スミスが仕掛けた最高の謎解き!・・・とはいえ、暗号を解く気がない人でも開けられちゃうかもね(苦笑)

シリンダーの暗号が000001だったのは、少し馬鹿げているけど、それ以上にスウィートな結果だ。
ー ガブリエル・テイト 2015年11月30日 ザ・ガーディアン
「ロンドン・スパイ」は筋書きとサブテキストの狭間で、そして目に見える姿と本当の姿の狭間で息づいている物語なのだ。自分を知り、恋人同士が偽りの中でどうやってお互いを知っていくのかを描いた物語だ。そして残酷で恐ろしい世界へと足を踏み出していけるように自分自身を知ることができるという希望を描いているのだ。これは誰かが世界最大の秘密を0000001でロックしたシリンダーの中に隠した、なんて物語ではないのだ。
ー ジャック・シール 2015年12月7日 ザ・ガーディアン

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そしてアレックスがシリンダーに隠していたのは「嘘の終わり」・・・え?そんなモノ?と確かに思いますよ。世界中の諜報機関がそんなモノに怯えて、あそこまで手の込んだ方法でアレックスを殺すのか??と。しかし、ダニー以外のあらゆる人々が嘘の中で生きているこのドラマ。その偽りの世界で生きてきたアレックスが初めて出会った無垢なダニー。その二人の世界の溝を埋めようとしたのが彼の研究なら、やはりこの答えしかありえない。シリンダーに隠された秘密を知って驚く3人の横で、その重大さも分からず、ただアレックスを思って涙を浮かべるダニーがこのドラマの主役なのだから。

アレックスのミステリアスなシリンダーのコードは、とても数学の天才が組んだとは思えないものだった。でも「たった一人の人」との愛に溺れていたのだとすれば?スパイの世界では、パスワードはあくまで「パスワード」でなければならないのに。だからこそマーカス教授の才能ある生徒とダニーとの「知の存在しない愛」は教授を苛つかせ、結果的に彼の人生を奪ったのだ。
ー ジェームス・ジル 2015年11月30日 ラジオ・タイムス

ダニーの分身「ドッペルゲンガー」として同じスーツを着て現れた男とアレックスの秘密。信じていたアレックスの事を実は何も知らなかったと嘆き、彼との別れを決心するダニー。でも彼の事を知らなくても、アレックスがダニーに残したメッセージは、彼にとってダニーはたった一人の人だったという事。(そしてこのエピソードでもベン・ウィショーの切なく繊細な演技が美しい・・・)

一つの謎が解ける度に紐解かれていくダニーとアレックスのラブ・ストーリーにどっぷりとはまっていく第4エピソードなのです。


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そしてスコッティの死という衝撃的なラスト。

ザ・ガーディアンのガブリエルさんの疑い深さを笑いながらも、確かに拭いきれなかったスコッティへのモヤモヤした疑惑。それもトム・ロブ・スミスにすっきりさせてもらいましょう!

「スコッティは100%善良な男だと思っている。人々が彼から引き離されていくのは、彼が自分は決して誰かと一緒にはなれないと思っているから。そして彼は自分の若き日を写したようなアレックスとダニーが出会い、恋をしたと分かっている。彼の反応は、彼が経験できなかったラブ・ストーリーへの悲しみなんだ。違う解釈をされてもそれはそれで良いけれど、僕自身はスコッティは悪意のかけらもない人物だと思っている。」
ー トム・ロブ・スミス インタビュー 2015年12月17日 ザ・ガーディアン

そしてさらにミステリアスな彼の死を理解する鍵としてトム・ロブ・スミスがこんなことを書いています。

(真偽は定かではないが、CIAの暗殺マニュアルと言われる文章からの引用として)「密かな暗殺には、わざとらしいまでの事故死が最も効果的な方法だ。暗殺が成功した時には大した興味を引くこともなく、通り一辺の捜査が行われるからだ。」・・・昨今の我々は分裂症的なまでに疑い深いので、ただの事故などでは我々の注意をそらす事はできない。基本的に我々は偶然の一致なんて信じない。でも我々はストーリーを、少なくとも良く出来たストーリーは信じるのだ。その死を殺人と思わせないためには、殺人犯はストーリー・テラーになる必要がある・・・そのマニュアルの「テクニック」の欄では「個人的な習慣こそが、どんな不自然な事故死でも装うことができる。」と断言している。・・・先入観こそが有効であり、人々は何の証拠も求めずにそのストーリーを信じる。例えば、アル中を疑われずに殺すならアルコールを使う。スピード違反の記録がある者を処刑するには、その人物がスピードを出していたとさえ暗示しておけば、スピード狂である必要もないのだ。
ー トム・ロブ・スミス 2015年11月9日 デイリー・テレグラフ

そして鬱患者は自殺し、SM行為を楽しんでいた者はその行為の果てに事故死する。現実世界の「バッグの中のスパイ」の死も謎に満ちたまま。世界は嘘で塗り固められているのか。嘘の世界の中で、このストーリーの真実は何なのか。果して残り1時間でその決着はつくのか!?(苦笑)


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ちなみにチョイ役で登場するこの銀細工屋のオヤジを演じているヘンリー・グッドマンは、ローレンス・オリヴィエ賞も受賞している、舞台を中心に活躍するイギリスの名俳優なのだそうです。


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