BBCドラマ「ロンドン・スパイ」全エピソード徹底解説! Episode 3

ここからはネタバレ注意!!

Episode three


BBC
ダニー「あいつを愛していた。とても愛していた。でも奴らと戦えない。」
突然、警察に連行されるダニー。警察はアレックスとダニーの間に真剣な関係など無く、行きずり同士のドラッグとSM行為の果てにアレックスは死んだと疑った。あの屋根裏はダニーの過去の経験から作り上げられたステージだったのだ。
さらにアレックスと高級売春クラブとの関わりを示唆されるダニー。その組織に接触しようと古い知人のリッチーを訪ねた。ダニーはドラッグ欲しさに彼のセックス・パーティに入り込んだことがあったのだ。組織の情報と引き換えにダニーを求めるリッチーだが、アレックスと出会ったダニーにはもはや応じる事はできなかった。
帰宅したダニーはキャンディの中の錠剤が何だったのか友人から教えられる。半信半疑でHIV検査を受けたダニーは感染を告げられた。アレックス以外と関係していなかった彼には信じられない事だった。ダニーは警察での採血で意図的に感染させられたと訴えた。ありえない話だがスコッティは信じた。スパイはアレックスとダニーの関係を汚れたストーリーへと書き換えようとしているのだ。
スコッティには昔、エイズに倒れた恋人がいた。病と戦う事を諦めた恋人を責めたが、勝ち目の無い戦いに直面した事が無いのだとスコッティは責められた。しかし今度はダニーのために勝ち目のない相手との戦いを決心したスコッティだった。
青いプールで癒されたダニーはスコッティにシリンダーの事を打ち明ける。中を解読するためには協力が必要だった。スコッティはダニーを連れて旧友クレアに会いに行く。ロンドン大学学長である彼女に、アレックスの教授だったマーカスへの仲介を頼んだ。
そして次に向かったのは支配階級の男性が集うクラブだった。スコッティは旧友ジェームスにアレックスの殺害について尋ねた。顔をしかめるジェームスから聞き出せたのは、彼の殺害は全ての国の諜報機関が同意したという事だった。ダニー達に味方はいないのだ。
帰り道でダニーはリッチーの車に呼ばれる。手渡された封筒に入っていた携帯電話は売春組織からのコンタクトだった。
ベン・ウィショーとマーク・ライアンスがBAFTA(英国アカデミー賞)の主演男優賞を争うのは間違いないだろう。これ程までに少しの表現で多くを語る英国俳優が他にいるだろうか?
ー ガブリエル・テイト 2015年11月23日 ザ・ガーディガン

全5話の中で最もアート色が強く、そしてベン・ウィショーの演技力が際立つ第3エピソード。

不安定な手持ちカメラが無言のダニーを追うクリニックのシーン。窓を流れる雨がまるでダニーとスコッティの涙のように顔を伝い、そしてスコッティの恋人のようにエイズに倒れたデレク・ジャーマン監督を彷彿とさせる「ブルー」の世界。スリリングなストーリー展開の中でダニーを癒すように青くゆったりと流れるプール。

削ぎ落とされた会話と、多くを物語るような美しい映像。こんなアート・フィルムのようなドラマを放送するのかっ!?


BBC

そして全てのシーンを支えるのが、言葉を口にしなくても全てを物語るようなベン・ウィショーの豊かな表現力。一瞬たりとも緊張感が途切れず、それでいて人を惹きつけるナイーブさとガラスのような脆さを感じさせる彼の演技。ここまでのエピソードも素晴らしいかったけれど、個人的にはこのエピソードでノック・アウトされました・・・。


BAFTAの主演男優賞にノミネート!・・・受賞はマーク・ライアンスでしたけど。
そして本人はNYでの舞台のため、授賞式には現れず / BBC
「ベン・ウィショーは天才だね。『ウルフ・ホール』のマーク・ライアンスとベンが同じ魔力を持っていることに惚れたよ。演技しているとは思えない。どちらもスッと役の中へ消えていってしまい、どうやっているのかすら分からないんだ。」
ー トム・ロブ・スミス インタビュー 2015年12月17日 ザ・ガーディアン

と、絶賛されたベン・ウィショー。彼自身はダニーをどう演じたのか。

「トムは多分、僕をイメージしたと思うよ。トムとジュリエット・ハウエル(プロデューサー)から2、3話分の脚本を渡されて『読んでみて、どう思うか聞かせて欲しい』と言われたんだ。すぐに夢中になったよ。どんな結末になるのか分かっていなくてもね。トムと話をしたら、まだ書いていないだけで結末は頭に浮かんでいると言っていた。トムの事は知らなかったし、彼の本も読んでいなくて、これが彼にとって初めてのTVでの仕事だったからね。でもとても知的で才能のある人だよ。」
(「ダニー役を引き受ける時に彼がゲイなのは重要なモチベーションとなったのか?」という質問に)「もちろんそうだよ。この設定が好きなんだ。ダニーはあくまで男性と出会うゲイの男性というだけで、ここではセクシュアリティは重要な事柄ではないんだ。そこが気に入ったんだ。トムは素晴らしい作家で、単に心理学をプロットに組み込むだけでなく、このキャラクターは複雑な感情を持っている。トムがダニーに与えた深みやバックグラウンドが好きなんだ。」
「ダニーを25歳としては演じられない。だから28歳のつもりで演じるんだ。それが僕の頭の中にある彼のイメージだ。」
「(ダニーが働いているのは)アマゾンっぽい倉庫だね。だからダニーが若過ぎると(そこで働いている)理由が分からなくなる。彼には過去がある。それが重要なんだ。」
ー ベン・ウィショー インタビュー 2015年11月9日 ラジオ・タイムス

BBC

「ロンドン・スパイ」UK版DVDでは、出演者やスタッフのインタビュー、撮影シーンなどが観られるエクストラが収録されていますが、その中でオフ・シーンで笑うベン・ウィショーに「あああ!顔はダニーなのに、笑い方はベン・ウィショー(汗)」と驚かされます。ダニーなら絶対に見せないナーバスで抑えたような笑顔で、ダニーがベン・ウィショーをイメージして書かれていても、ダニーがあれほどナチュラルな雰囲気で演技されていても、あれが完全に演技によって作り上げられているのだとマジマジ感じさせてくれますよ。

そして、このエピソードではリッチーことマーク・ゲイティスの変態オヤジっぷりが炸裂!


BBC

マーク・ゲイティスは英国で活躍する個性派俳優。最も有名な出演作といえばご存知BBCドラマ「シャーロック」でのマイクロフト・ホームズ役。俳優だけでなく、脚本やプロデューサーとしても活躍しており、「シャーロック」も脚本家スティーブン・モファットと共に脚本、プロデュースを担当しています。またBBCのSFドラマ「ドクター・フー」の大ファンとしても知られ、こちらにも出演・脚本として度々参加していますよ。

ずる賢く、小さなビーズのように光る目で、粘着質で、快楽主義的。どう表現しようと、マーク・ゲイティスの吐き気がするようなフィクサーは忘れがたくて毒のある印象を残した。もう出番はないだろうが、充分価値のある登場だった。・・・ダニーがシャワーを浴びたくなるのも仕方がない。
ー ガブリエル・テイト 2015年11月23日 ザ・ガーディアン

吐き気がしそうな位にリッチーが厭らしければ厭らしい程、海辺でダニーとアレックスが交わす微笑みに胸が締め付けられてしまう。マーク・ゲイティス、良い仕事してます(笑)

しかし「ロンドン・スパイ」が大嫌いなデイリー・テレグラフ紙は相変わらず叩きまくり。

『なぜダニーは殺人の罪をきせられたのか?』という最大の謎が、ペラペラに薄く5時間のエピソード全体に伸ばされてしまっている。「ホームランド」のようなUSスパイ・ドラマなら、ここで視聴者を不安や疑惑に釘付けにするのに、「ロンドン・スパイ」にはそれが全くない。・・・良いドラマは良いシーン、感情表現、会話で構成される。「ロンドン・スパイ」にはそれが皆無なのだ。
ー ハリー・マウント 2015年11月23日 デイリー・テレグラフ

でもザ・ガーディアン紙は、

ストーリーが進んで行けば行く程、このドラマのリズムが好きになり、そして全ての謎は解けると確信が深まる。でも敗北は避けられないはずだ。「お前たちの物語はすでに決められている」と、スコッティが言うのなら、ハッピー・エンドはありえない。
ー ガブリエル・テイト 2015年11月23日 ザ・ガーディアン

えっと・・・そんなに期待して大丈夫ですか?(苦笑)

「つまり我々に味方はいない。我々の敵はひとつではなく、全ての諜報機関なのだ。」こんな伏線を張られてしまっては次回を観ずにはいられない。
ー ガブリエル・テイト 2015年11月23日 ザ・ガーディアン

だから、あまり期待するとマズいですよ??(苦笑)