THE ELEVENTH HOUR - ラグディマン、グッナイ!! part 2
I'M A TIME TRAVELLER
11thにリジェネレーションしたドクターは、最初に出会った7歳の少女アメリアに、自分は「タイム・トラベラー」だと教えました。この言葉通り、11thドクターのアドベンチャーはトリッキーな時間という宇宙の法則の中でした。
The Day of The Doctor / BBC
これまでのシリーズでもモファットは「時間」をトリックにした素晴らしいエピソードを幾つも書いています。「Blink」では「時間」を奪うモンスター、ウィーピング・エンジェルを生み出し、「Silence in the Library/Forest of the Dead」では、ドクターが未来で出会うはずの女性リバー・ソングを登場させました。そして「The Girl in the Fireplace」では、ポンパドール夫人の生涯を僅かな時間で通り過ぎてしまうドクターを描きました。
どれもが新生「ドクター・フー」を代表する傑作ですが、この「時間」を使ったトリックは11thドクターではシリーズの核となり、11thはダーレクやマスターと戦うよりも、崩壊していく時間から世界を救い、そして自分の歴史という時間まで書き換えてしまいました。こんな複雑で、モンスターと戦わないモファットのストーリーはファンの間でも賛否両論でしたが、しかし彼が書くサイエンス・フィクションらしい11thドクターの世界はややマンネリ化し始めていた「ドクター・フー」に確実に新しいエッセンスを加えたのです。
The God Complex / BBC
そして11thドクターは単に過去や未来の「点」に留まるのではなく、流れていく時間の中でさまざまな人々との出会いと別れを経験していきます。それは自由に旅をしているはずのドクターがどれほど孤独なのかを初めて見せてくれたのです。
惑星アパラプチアの圧縮された時間の中で年老いてしまったエイミーにローリーは語りかけました。
"I don't care that you got old. I care that we didn't grow old together. - 君が年老いたことなんて気にしない。一緒に年を重ねられなかったのがイヤなんだ。”
それはドクターには決して口にできない言葉でした。
エイミーが待ち続けた12年間をドクターは5分で飛び越えてしまい、エイミーが成長し、妻となり、母となっても、ドクターは7歳のアメリアを彼女の中に見ていました。そしてドクターがエイミーの成長を認めた時が2人の別れの時となり、エイミーはローリーと共に年老いて土に帰る道を選んだのです。
やっと出会えた「Impossible Girl」のクララは年老いていくドクターの前に変わらない姿のまま現れ続け、そして妻であるリバー・ソングですらドクターはすでに彼女の死を知っています。
The Snowmen / BBC
一緒に旅をする彼女たちだけでなく、デーモンズ・ランにいた女の子、ロアナの死にドクターは涙を流しました。エイミーのように子供の時にドクターに出会ったロアナはずっと彼を待ち続けていました。でもエイミー達を守って死んでいく彼女を11thドクターは名前すら知らなかったのです。
時間を旅するドクターに寄り添うのはターディスだけ。人々はいつもいつもドクターとすれ違って行きます。
さらに時間を旅するドクターはあらゆるものの終わりを見てきました。リバー・ソングの死も、自分の故郷の消滅も、時間も空間も無くなって自分しか存在しなかった宇宙の終焉も、そして自分の旅の行き着く先まで知ってしまいました。
それなのになぜドクターはまたコンパニオンを旅に誘い、たった一人の小さな子供を救うために戦いに挑むのか。
DON'T BE ALONE, DOCTOR
どうして自分を旅に誘ったのかとエイミーに聞かれ、11thドクターはこう答えました("Meanwhile in the Tardis")
"Because I can't see it anymore . - 僕の目にはもう何も映らないんだよ”
生命が死に絶えた地球の終末に涙を流すクララを見て11thドクターが戸惑ったように、彼にとって世界は永遠であると同時に一瞬の出来事なので、もやは惑星の最後を見ても何も感じることがないのです。
The Time of The Doctor / BBC
時折こんな冷淡な一面を見せる11thドクターを見ていると、実はドクターの本質はマスターと変わらないのかもしれないと思わせるのです。「 時間の支配者」の名を持つ種族であるドクターは、本当は地球やそこに住む人類の生死なんて気にも留めないほど超越した存在なのかもしれません。
そこで思い出したのが、「ドクター・フー」シリーズに脚本や出演で関わり、モファットと共にBBCドラマ「Sherlock」のプロデューサーを務めているマーク・ゲイティスが、インタビューの中でドクターとシャーロックという2人の天才キャラクターについてこんな比較をしていました。
”The Doctor wants to be one of us. Sherlock is one of us, but doesn't want to be. - ドクターは我々の中に入りたいと望んでいる。シャーロックは我々の中の一人だが、それを望んでいない。"
The Power of Three / BBC
元々、人類と異なる種族であるドクター。でもマスターと違って、地球を訪れたドクターは人類と出会い、定められた時間の中で終わりがくることを知りながらも懸命に生きる人々の友情や愛情に触れることで、彼らと同じヒューマニティを得たのかもしれません。だからこそエイミーとローリーが毎年自分のためにクリスマス・ディナーを用意して待っていたと知った時、11thドクターは1000年間生きてきて初めて喜びで涙が流れた自分に驚いたのです。
そして11thドクターは最初のエイミーの質問にこう続けたのです。
"But you, you can see it. And when you see it, I see it - でも君は感じることができる。君が感じれば、僕も感じる事ができる。"
ひとつの生命がどれほど唯一無比の存在なのか、その感覚を持たない11thドクターにとって、コンパニオンはいつも傍らで彼にヒューマニティを思い出させてくれる存在でした。
故郷の惑星で、戦争を終わらせるために人々を実験台にして殺人サイボーグを作り出したカーラ・ジャックス。マーシー村を救うため、11thドクターは復讐にやってきたサイボーグに彼を引き渡そうとしましたが、彼が悪人であろうと善人であろうと、ドクターが彼を見捨てるのをエイミーは許せなかったのです。そしてドクターに語りかけました。
"This is what happens when you travel alone for too long. Listen to me, Doctor, we can't be like him. We have to be better than him." - 長い間、独りで旅をしているとそうなるのよ。聞いて、ドクター。私たちは彼と同じになってはいけないの。彼より善き人にならないと。"
Hide / BBC
ドクターは独りでいると「善き人」であろうとする心を見失ってしまう。それを知っていたからこそエイミーは「独りにならないで」とドクターに最後の言葉を残したのです。
Time Warを独りで戦っていたWar Doctor(イアン・ハート)は宇宙をダーレクから救うため故郷を消滅させました。でも11thドクターが再び同じ決断を下そうとした時、彼の隣にはクララがいたのです。どうすればいいのか分からず戸惑うドクターにクララは言いました。
"What you've always done. Be a doctor. - いつも通りでいい。ドクターでいて欲しい。"
Time Warを終わらせるという大義を考えず、ダーレクの襲撃の中で生き延びようと必死に逃げるタイムロードや子供達の姿に涙を流すクララ。彼女が一緒にいたからこそ11thドクターは新しい選択肢を見つけることができたのです。
ドクターはどうしていつもコンパニオンと一緒なのか。ドクターにとってコンパニオンは単なるアシスタントや孤独の穴埋めのためではなく、ドクターがドクターであるために、彼がドクターであろうとする心を忘れないためにいつも彼の傍にいなければならない不可欠な存在なのだと11thドクターは気づかせてくれたのです。
I WILL ALWAYS REMEMBER WHEN THE DOCTOR WAS ME
11thドクターを見ているといろんな事を考えてしまいます。11thドクターのアドベンチャーはまるで彼の内面を探る旅のようでした。
総合プロデューサーのスティーブン・モファットは、彼が手がけるドラマ「Sherlock」と同じように、ドクターやシャーロック・ホームズという長い間イギリスが愛してきたキャラクターを、単なるエキセントリックな天才としてだけでなく、彼らのバックグラウンドを膨らませ、周りの人々との関わりを通して彼らの内面を描き、友人達に支えられた感情豊かな現代的ヒーローとして再生させたのです。
この11thドクターのシリーズはまるで50年前に白黒で誕生したドクターが、カラーとなって21世紀の新しいドクターにリジェネレーションしたかのようでした。おそらくこれこそがモファットが目指したNew Doctorであり、「My Fabvourite Doctor」を持っていなかった若いマット・スミスだからこそ創り出せたドクター像だったのだと思います。
11thドクターは「ドクター・フー」の歴史の中でも異色のドクターとなるのかもしれません。でもこのドクターは新たな「ドクター・フー」ファン層を獲得し、ドクターを演じる俳優が初めてBAFTA(英国アカデミー賞)の主演男優賞にノミネートされるという新たな歴史を「ドクター・フー」に残したのです。この11thドクターは間違いなく記憶に残るドクターとなるでしょう。
と、まぁ、たかだかファミリー向けのSFドラマで、ここまであれこれと考えるもんだと自分でも呆れますが(苦笑)そんな風に想像にふけってしまうのも11thドクターのシリーズの魅力だったのです。
そしてっ!8月には遂に12thドクターが登場します!新たなバックグラウンドを持ったドクターをピーター・カポーディはどう進化させていくのか?スティーブン・モファットはどんなアドベンチャーを12thドクターとクララに用意しているのか?そして2人はどんな関係になっていくのか?ドキドキして待ちましょうっ!