ベン・ウィショーの舞台を観に初ブロードウェイ!【Part.2】March 2016
そこから休憩をはさんでの3時間、ベンのブロードウェイ初舞台「Arthur Miller's The Crucible」は・・・素晴らしい舞台でしたっ!そしてベン・ウィショー!あんた、最高だぜっ!!
「これがブロードウェイの舞台かよっ!?(苦笑)」と突っ込みたくなる程にシンプルなステージ。教室のようなセットに巨大な黒板と教室机、椅子があるだけ。他の小道具はほとんど無い。スポットライトもなければカラフルもライトも無く、ただ天井から蛍光灯のような明かりがあるだけの無機質でミニマリズムな世界。
17世紀を舞台にした脚本に対して、「これでもブロードウェイかいっ!?(苦笑)」と、さらに突っ込みたくなる程、現代的でごくごくシンプルなコスチューム。そして「まさかベンがアメリカ訛りを!?」なんて心配が吹っ飛ぶ程、イギリス人俳優はフツーにイギリス訛り、アメリカ人俳優はフツーにアメリカ訛りを話すという無国籍っぷり。
でもそんなステージからは、演じる俳優たちの生の声、生の肉体がリアルに浮き上がってくるんです。とことん時代的背景、地理的背景を排除し(考えてみれば教室なんて最も普遍的、無国籍なイメージかも)60年前にアーサー・ミラーがこの作品で描いたテーマを、時代も国も超えた普遍的な人間の問題として蘇らせたのが今回の舞台なのです。
Ben Whishaw & Sophie Okonnedo / The Guardianより拝借
ジョン・プロクターの妻が連れていかれる後半から一気に舞台は緊張感に包まれ、そして、生き延びるために自分に嘘をつくのか、それとも自分にとっての真実を守って死を選ぶのか、苦悩するジョン・プロクターを演じる小柄なベン・ウィショーの圧倒的なパワーと表現力に、声を上げることもできない観客は惜しみない拍手を送り続ける。そんな静かだけど熱いスタンディング・オベーションでした。
なんて、偉そうに語れるほど多くの舞台を観た訳ではありませんが、それでも人生で最も感動したかな。初日に1列目で観てしまったものだから、あまりの迫力にホテルに帰ってもほとんど一睡もできず。時差ボケが治らねえよぉ!滞在最終日はライブに行く予定だったのに「ベンを観ておかないでどうするっ!!」と、劇場窓口で直接チケットを購入してしまい、結局、滞在3日間は毎日がベン・ウィショー祭り(笑)
終演後、劇場から帰るベンを取っ捕まえた日には、舞台の興奮を引きずったままで「この舞台、素晴らしいよぉ!!あんた、本当にワンダフルだよぉぉ!」と、まくし立ててしまった(汗)ベンは「ありがとう〜!!」と、笑顔で優しく手をニギニギしてくれたけど・・・あんなに興奮させたあんたが悪いんだってば。
舞台の上でも緊張感溢れて、それでいて繊細でしなやかな演技はそのまま。感情の揺れを見せる目の瞬きや、唇を一瞬舐める仕草も健在で、むふっ、良いなぁ。確かに1列目じゃなきゃ分かんないような演技ですけどね(苦笑)確かにベンばっかり凝視してなきゃ気付きませんけどね(笑)それでもそんな演技をするベンから目が離せないっ。生鼻水だって見ちゃったよ。感情が高ぶると涙と鼻水が一緒に出てくるのはベンのデフォルトだなっ!そんなヒゲ面にキスされまくる妻のエリザベスことソフィーも大変だ(苦笑)そして低音なのに会場中に響く澄んだ美しい生声。なのに感情を爆発させると、全ての観客の呼吸を止めるかのような圧倒的な迫力。ああ、素晴らしいぃぃ・・・。
全員が去った後の舞台
男性的と言われた歴代のジョン・プロクターは分かりませんが、ベンが演じた彼は、時には可愛らしく、時には戸惑い、怒り、そして生も死も選べずに自らの嘘に激怒し、混乱のまま感情を爆発させ、名誉を守る為ではなく、むしろ全てに絶望したかのように絞首台への道を選ぶ。現代的で、か弱く、脆い、とてもリアルな人間でした。
そしてソフィー演じるエリザベスもたくましく、意思の強い女性として描かれ、二人きりで過ごす最後の朝の美しさは忘れられない・・・とはいえ、ソフィーはいつもベンと一緒にステージに登場するので、ついついベンばかり見ちゃってゴメンよ。
話題のシアーシャも存在感が抜きん出ていました。でも思っていたより出番が少なかったよ。てっきり彼女が主役なのかと思っていたら、完全に主役はベンでした。
そしてミニマムな舞台に登場する数少ない仕掛けは無駄がなく、どれもこれも印象的。鍋を煮立てる炎や、誰もいないステージに静かに登場するオオカミは、人間の原始的な恐怖心を呼び起こすようで、一方で巨大な黒板はスクリーンのように美しく変化する。この鮮やかな演出、これがブロードウェイというものなのか!!
いくらそんな素晴らしい舞台だからって、3回もぶっ続けで観て、どうする!?なんて言われそうですが、いやいや、やっぱり舞台はライブ!ベンの演技は観る度に変化するのです。ラスト・シーンもある時は攻撃的で、ある時は怯えるようで、毎回ドキドキさせられちゃう。おまけにある日は鍋の味見をするシーンで、口に入れたものを思わず吹き出してしまって、ソフィーに「ゴメンっ!」と苦笑するベンなんでライブならでは、でしょ!?
劇場で貰えるPlaybill。なぜか3日目は表紙が変わってました
それにしても驚いたのは、何にでも笑うブロードウェイの観客たち。信仰心を問われたジョンが、どうしても十戒をひとつだけ思い出せず、「『姦淫』でしょ?」と妻に突っ込まれるシーンにドッと笑いが。えっ!?ここ、笑うトコだったの!?もっとシリアスなシーンだと思っていたのでビックリ。
確かにベンもこのシーンはおどけたように演じていましたが、他のシビアなシーンでの皮肉交じりなセリフや、何より、ベン演じるジョンが妻に「あなたは女の子の気持ちが分からないのよ」と言われるシーンにまでドッと笑いが。そ、それはベンがゲイだから??そこ、笑うトコなの??うーん、イギリスならおそらく「クスっ」っと笑うだけの反応になるんじゃないかな。こんなところにもメンタリティの違いが・・・
と、こんな感じで初めてのブローウェイはお腹いっぱいになるまでベンを満喫してきました!ニューヨークまでの往復26時間、ユナイテッド航空の狭い座席に押し込められた甲斐があったよ。ベンの舞台の素晴らしさに触れてしまい、また生のベンが観たいよぉ!
「えっ!?まさか公演ラストの7月にまたニューヨークに行く気!?」とビビるダンナ。
さすがにそれは無いっ。次の舞台に備えて貯金しておくよっ!
余談- extra
メチャ物腰が柔らかい優しいニイちゃんでした
今回、ベン・ウィショー本人に会うことができましたが、劇場にやってきたベンは穏やかで華奢なニイちゃんだったのに、舞台の後では「ベンっ!?あ、あんた、ベン・ウィショーやないか!?」と思わず言いそうになるほど、顔が「ベン・ウィショー」になっていてビックリ!しっかり”俳優”顔になってるんですよ!うーん、やっぱり凄い俳優だねぇ!
まさか彼と1対1で話せるなんて夢にも思っていなかったので、すっかり舞い上がってしまいましたが、それでも「あんたの『LONDON SPY』が大、大、大好きだよっ!!」と伝えたら、めっちゃくちゃ満面の笑みで喜んでくれましたよ!
余談その2 - extra 2
3月中はベンが舞台に出るのか不安になる程だったのに、オープニングを迎えた4月にはベンのインタビューやレビューが続々。その中で、イギリスのザ・ガーディアン紙が興味深い記事を載せていました。
筋肉系で男性的なイメージだったジョン・プロクターをベンのようなタイプの男優がブロードウェイで演じたのはアメリカでは衝撃的だったようで、ちょうど話題になっていたアカデミー賞のダイバーシティ問題に絡め、ベン・ウィショーはハリウッドで新しいタイプの主演男優となれるのかと論じていました。でも答えは「ブロードウェイまでは来たけれど、ハリウッドはまだまだ無理」だってさ。「007のQは新たなファン層を広げたけれど、ゲイの俳優がジェームズ・ボンドを演じるとなればファンはボンド・カーに放火して抗議するだろう」ってコトらしい。
ヘナチョコな俳優のサイン(苦笑)
あるインタビューでは、ベンは「自分は主役向きの俳優ではない」なんて語っていて、売れない俳優達から「BAFTA主演男優賞の男が何を言うかっ!!」と闇討ちされそうな発言をしていましたが、自分はハリウッドが求める男性像ではないという意味も込められていたのでしょうか?
イギリス男優がハリウッドに進出する時は、必ず体を鍛えるよう求められるそうで、ベネディクト・カンバーバッチやマット・スミスも筋トレに励みましたが、はたしてベン・ウィショーが今のヘナチョコな体型のままでアメリカに受け入れられる時は来るのか!?
ちなみに他の記事では「『London Spy』はBAFTA同様、エミー賞にもノミネートされるのか?」と書かれていましたが、それも答えは「No!」なぜならこれがゲイ・ラブ・ストーリーだから。ああ、アメリカは近いようで遠いぜっ。
ニューヨーク雑感
最終日は劇場前でライブ帰りのダンナと待ち合わせて、エンパイヤ・ステート・ビルに登ってきました。日中ならエレベーター乗るまでに2、3時間待ちは当たり前だそうですが、さすがに夜の12時はガラガラ。スイスイと86階展望台まで上がり、勝ち組気分で展望台の外に出ると・・・あああ、なんてこったい!!街の灯りが消えているぅぅ!!そうなんです!24時間眠らない街ニューヨークと言われながらも、さすがに真夜中ではオフィス・ビルの灯りもまばら。ま、まぁ、それでもそれなりに華やかな夜景が見られますし、何よりそんな時間でも道路は大渋滞。車のライトがニューヨークの通りを照らしていました。
深夜の夜景は灯がまばら
そしてニューヨーク観光で楽しみにしていたのが新名所「ハイライン」。廃線となった線路の高架を遊歩道として再開発した大人気の名所で、草花が生い茂る遊歩道は空中庭園のよう・・・がっ!なんてこったい!!まだ寒い3月では植物がみんな枯れはてていて、空中庭園な気分はかけらも無し。とはいえ、少し高い目線から眺めるウエスト・サイドのニューヨーク散策は意外と楽しかったです。そういえばインタビューでベンがパートナーと一緒にウエスト・サイド地区に住んでるって書いてあったなぁなんて思い出していたら、いきなりダンナが「この辺りにベンが住んでるのかなぁとか考えてるんでしょ!?」ギクっ!!
さらにニューヨークと言えば、大好きなゴッホとアンリ・ルソーとジャクソン・ポロックの絵画の宝庫!最終日にようやく美術館巡りとなりましたが、ああっ!なんてこったい!劇場でベン話しで盛り上がった中国のベン・ファンの女の子と何と偶然にもMoMaで再会っ!「ベンに会えたよぉ!」「キャー!」と、美術館でガールズ・トーク炸裂してしまいした。
今回の旅行で驚いたのはニューヨークの治安の良さ。舞台が終わった12時頃でも一人で地下鉄を使ってホテルに帰れたし、エンパイヤ・ステート・ビル観光の帰り道でも、1時過ぎに地下鉄に乗っていても(警官も大勢乗っていたけど)危険は感じませんでした。ホテルが地下鉄駅の真上だったので地下鉄ばかり使って移動して、路線バスも使って、おかげで名物イエロー・キャブに乗る機会が無かったです。あれなら次は一人でも行けそう??