BBCドラマ「ロンドン・スパイ」徹底解説!


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2015年にイギリスBBCで放送されたスパイ・ドラマ「ロンドン・スパイ(London Spy)」。

映画「007」シリーズで科学者Qを演じる人気英国俳優ベン・ウィショー、そしてジム・ブロードベント、シャーロット・ランプリングら実力派俳優が名を連ね、さらに数々の賞を受賞したミステリー小説「チャイルド44」の作者トム・ロブ・スミスが初めてTV脚本を手がけた作品として話題になりました。

ところがっ!放送開始と同時にイギリスでは評価が真っ二つ。別の意味でも話題になってしまったこのドラマもようやく日本のNetflixに登場!

そこで、なぜ「ロンドン・スパイ」はそんなに評価が割れてしまったのか?そして結局このドラマは傑作なのか!?駄作なのか!?イギリスでのレビューから読み解いてみました。

イギリスでの放送から1年も経ってしまいましたが、まだご覧になっていない方のために、まずは「ロンドン・スパイ」とはどんなドラマなのか。ネタバレしない程度に・・・

優れた芸術では評価が分かれるものならば、今、TVはその頂点に達しているのだろう。小説家トム・ロブ・スミスのデビュー作「ロンドン・スパイ」は崇拝され、嫌悪された。
ー ガブリエル・テイト  2015年12月7日 デイリー・テレグラフ

London Spy - Story

「ある男の話を聞いて欲しい。皆が飲んで談笑する中で『ある男』はただ歩き、そしてさっきまで皆に背を向けて座っていた場所に戻ってきた。彼のその姿は、独りにして欲しいと世界中に合図を送っていたが、本心は正反対なのだと通り過ぎる人々に気づいて欲しかった。そんな時、誰かが彼の隣に座り、突然会話を始めた。『ある男』が僕で、『誰か』は君だ。」
ー アレックス
何もなかったクラブ帰りの早朝、テムズ川の橋の上でダニー(ベン・ウィショー)は謎めいた青年アレックス(エドワード・ホルクロフト)と偶然出会った。クラブ通いをしながら友人たちと安アパートで暮らすダニーと、投資銀行で働く孤独な天才のアレックス。生活環境も性格も違う二人だったが互いに惹かれあった。
しかし彼らの幸せな時間は突然終わりを告げられる。無残な姿で見つかったアレックス。そして彼の死をきっかけに次々と明らかになる彼の嘘。ダニーが生涯を共にしようと決めていた彼には全く別の顔があった。親友のスコッティ(ジム・ブロードベント)からアレックスは実はMI6のスパイだったと告げられる。
アレックスの嘘が信じられないダニーに彼が残したのはロックされたシリンダー。なぜアレックスは殺されたのか。二人のラブ・ストーリーは偽りだったのか?
様々な嘘が重なり合っていく中で、真実を探し求めるダニーはスパイの世界に巻き込まれていく。

BBC

2015年11月9日よりイギリス国営放送BBC TWOで放送された5話連続ドラマの「ロンドン・スパイ」。豪華な顔ぶれで超鳴り物入りの作品ながら、ゲイ・セックスやSMグッズ、ドラッグなどのアダルトな内容が、夜9時というイギリスTVでの「ファミリー・タイム」との分岐点の放送に相応しくないと、第1話放送後から非難轟々に。

国のあちこちからぎこちない会話が聞こえてきそうだ。「あれが殺人事件の凶器なのね?」 「違うよ、母さん、あれはケツの穴にxxxするモノだよ」(xxxは自主規制しておきます・・・)
ー ボリス・スターリング 2015年11月12日 ザ・ガーディアン

そしてトム・ロブ・スミスが書いた「スパイ・ミステリー」とは言い難いプロット、監督ヤコブ・ヴェルブルーゲンによる暗く静かな映像が「つまらない」「退屈」と酷評される結果に。

貧弱な「裏切りのサーカス」のようなこのドラマは露骨なセックス・シーンで批判されたが、そんなことは問題ではない。とてつもなく退屈なのだ。
ー ハリー・マウント 2015年11月23日 デイリー・テレグラフ
「ロンドン・スパイ」ほどフラストレーションが溜まったTVシリーズがあっただろうか?この現代的なドラマは5週間の間で目がくらむほどの高さまで昇り、くだらない程どん底に落ちた。人々を引きつけていたものは最悪なまでに誇張されていただけ。驚くほど素晴らしかったシーンも作家トム・ロブ・スミスと監督ヤコブ・ヴェルブルゲンの不合理なまでの自己耽溺に変わってしまった。
ー ベンジー・ウィルソン 2015年12月8日 デイリー・テレグラフ

と、ボコボコに叩かれる一方で、その「スパイ・スリラー」らしからぬプロット、それを詩的に紡ぐ映像の美しさ、そしてベン・ウィショーのハマり役ともいえるセンシティブな演技が大絶賛、熱狂的ファンすら生み出しました。

そして「ザ・ガーディアン」紙、老舗TV雑誌「ラジオ・タイムス」においては、2015年のベスト・ドラマの第5位に選ばれ、「BAFTA(英国アカデミー賞)」では「ミニドラマ・シリーズ部門」「主演男優部門」など6部門に渡ってノミネートされました。


BAFTA6部門にノミネート
作家トム・ロブ・スミスは最も美しく、ねじれたドラマを見せてくれた。表向きはスパイに関するドラマのようだが、その中心にあるのはラブ・ストーリーだ。
ー 2015年TOP40ドラマ 2015年12月30日 ラジオ・タイムス
ミステリーと緊張に溢れたスパイ物語や推理モノが好き?だったら「ロンドン・スパイ」だ。信頼する相手との優しい結びつきの物語?やはり「ロンドン・スパイ」だ。英国の重鎮俳優達とジェームス・ボンドのQがギュッと詰まって、いつまでも楽しめるものが欲しい?だったら、もうお分かりだろう。
ー ヒュー・フラートン 2015年11月23日 ラジオ・タイムス
もしもスパイ・ストーリーが筋書きよりもサブテキストで描かれるものだとするならば、そしてコードやアルゴリズムよりも人間関係を描き、世界から弾き出された者たちが繋がろうとする試みを描くものならば、「ロンドン・スパイ」はハンサムなまでに成功した作品だろう。
ー ガブリエル・テイト 2015年12月7日 ザ・ガーディアン

トム・ロブ・スミスと記念撮影 / BBC
ヤコブ・ヴェルブルゲン監督は多くのアート・ギャラリーより遥かに美しいイメージを見せてくれる。・・・2回観て理解できなくても、時間を無駄にしたなんて思えないほどこのドラマは衝撃的だ。
ー 2015年TOP40ドラマ 2015年12月13日 ザ・ガーディアン
ダニーを演じたベン・ウィショーは、沈黙して動かない時は、まるで感覚が備わった彫刻のように見える。しかし彼の表情が動いた時、複雑なパズルの底に奇妙なラブ・ロマンスが隠れたこのドラマの悲しみや怒りがリアルなものになる。ベン・ウィショーは間違いなく来年のBAFTAの主演男優賞にノミネートされるだろう。
ー 2015年TOP40ドラマ 2015年12月13日 ザ・ガーディアン

おまけにドラマ「シャーロック」のジョンこと俳優マーティン・フリーマンが雑誌「ラジオ・タイムス」に寄稿した文章では、BBCの素晴らしい番組としてピックアップした中でも・・・

「アーチャーズ」はどうだろう?「ドクター・フー」は?「クエスチョン・タイム」「トップ・オブ・ザ・ポップス」「ピーキー・ブラインダー」「マッチ・オブ・ザ・ディ」「アイ」「クラウディス」「ライフ・オン・アース」「ベイク・オフ」「ルーサー」「イースト・エンダース」「QI」「シビリゼーション」「ロンドン・スパイ」などなど(謙虚なので「シャーロック」は言わないでおくけど。)
ー「なぜBBCは世界の羨望の的なのか」マーティン・フリーマン 2016年5月26日 ラジオタイムス

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