ベン・ウィショーの舞台を観に、ロンドンへ - Part.3
Julius Caesar at Bridge Theatre ■ March/2018

【余談】遂にベン・ウィショーの『ハムレット』を観たっ!

本文中でちょっと触れた、ベン・ウィショーの「ハムレット」。2004年、ロンドンのOld Vic Theatreで上演され、当時23歳の(ほぼ)無名俳優だったベン・ウィショーがハムレットを演じて大絶賛された舞台です。


Ben Whishaw in Hamlet / The Telegraphのサイトから拝借

昨年ハムレットを演じたアンドリュー・スコットも、「ベンもベネディクト(カンバーバッチ)も友人だけど、どうやってハムレットを演じるかなんて相談してないよ(笑)」とインタビューで語っていたり、ベン本人のインタビューでも必ず名前が出るほどの伝説的な舞台なのです。

ターディス(ドラマ「ドクター・フー」に登場するタイムマシン)があれば真っ先にスッ飛んで行くのにぃぃ、と、悶々と空想しても、ドクターがいないんだからそれは無理。ならばせめて映像を!と、イギリスのナショナル・シアターやブリティッシュ・フィルム・インスティテュートのサイトをチェックしてみたり。でも見つけられたのはYouTubeにある数秒の映像ぐらい。

ところがっ!今回の舞台で、同じように日本からベンを観に来たファンの方とベン話しで盛り上がり、すると彼女から「明日、ビクトリア&アルバート美術館にベンの『ハムレット』を観に行くんですが、一緒にどうですか?」とお誘いがっ!

ええっ?!ビクトリア&アルバート美術館!?どういうコトですか、それ!?

ロンドンのサウス・ケンジントンにあるビクトリア&アルバート美術館(以下V&A)は、サブカルチャー的アートを得意とする美術館・・・というか、説明し難いのですが、アートを感じるものなら古今東西なんでも来いっ!と言わんばかりのスタンスで、ギリシャ彫刻からウィリアム・モリスの工芸品、宝飾品からアレキサンダー・マックイーンの回顧展まで、そして2、3年前にはベンが主演した舞台「Bakkai」の上映会も行われていたのですが、まさかそんな所にハムレットが隠されていたなんて!盲点でした!

「アーカイブのDVDを見せてもらうアポをとってあるので、連絡すればたぶん一緒に入れると思いますよ。」
はいっ!行きます!どこでもついて行きますっ!

とはいえ、翌日朝イチのアポだったので、美術館側に連絡が上手く伝わったかどうか不明でしたが、ともかく朝から待ち合わせのV&Aへ出発!・・・でもアーカイブを見せてもらうスタディ・ルームはサウス・ケンジントンの美術館ではなく、ケンジントン・オリンピアにあるBlythe Houseという所。西ロンドンにあるので、滞在していた東ロンドンからは、Overgroundを使ってグルっと1時間近くかかりました。

Blythe Houseの門で落ち合い、「まだ早いかな」とか話していると、いきなり門のインターホンから「誰だ!」と大声がっ!ビックリしたぁ。彼女が説明をすると門が開いたので一緒に入ろうとすると、またいきなり「待て!後ろは誰だ!!」えっ!?どこから見てるの!?

彼女がメールで連絡した事を伝えると、「ん〜っ、リストには載ってないけど、まあいいや。入って。」と、意外とアッサリ。


Hamlet / Daily Mirrorのサイトから拝借

中に入ると、声の主は実は気の良い受付のおじさんでした。改めてビジター・リストに名前を書いて、荷物を預け、そしてスタディ・ルームへ。

他にも数人、資料などを閲覧しにきた人たちもいて、順番にのんびりと対応してました。そして私はメンバー登録をしていなかったので、その場でPCに住所とかを入力しましたが、うーっ、キーボードが日本と違うから手間取るよぉ(汗)

そして通されたのは、6台ぐらいのDVDデッキの上にそれぞれ小さなTVが置かれた、古い図書館の視聴覚ルームみたいな小さな部屋。「では、見ますか!」「はいっ!」

そして、遂に観たベン・ウィショーの「ハムレット」!ベン、若いぃぃ!・・・じゃなくて、素晴らしいぃぃ!

舞台監督のトレバー・ナンが、『ハムレット』を思春期の物語にしたかったと語っていたように、当時、20代の俳優がハムレットを演じる事自体が珍しく、ましてやオーディション時にはまだ王立演劇学校の生徒で、商業的な舞台の経験がなかったベン・ウィショーが起用された時には、トレバーはスタッフたちから「気が狂ったのか!?」と言われまくったそうです。

しかし、ベンが演じるハムレットは、そんな周りからのプレッシャーなんで全く感じさせず(本人はハンパなかったそうですが)、初っ端から再婚するお母さんに鼻水ダーダー流して泣きじゃくり(笑)薬瓶とナイフを公園のベンチに置いて「To be or not to be」とつぶやき、再婚した母親を全力で責め立て、劇団の演技にはしゃぎまくる(舞台の床に座る時はベンはいつも正座しますが、この時からすでに正座好き!?)そしてたった一人でステージに立っていても、観客を惹きつけて離さない。


Hamlet / The Telegraphのサイトから拝借

少年のように痩せた体で今にも壊れそうな雰囲気なのに、ダイナミックで、無邪気で、美しくて、多感で、感情の抑揚が激しくて、そんな感情を自分でも持て余すかのように苛立つ、まさに思春期の少年のようなハムレット。あんなへっぴり腰でフェンシングをするハムレットなんて初めて見たよ(笑)

今のベン・ウィショーと同じように、脆くて繊細なのに、人の心を魅了する演技がこんな年齢の時にすでに完成されていたなんて。こんなハムレットを無名の23歳の俳優にやられちゃったら、そりゃあ評論家も「今夜、伝説が生まれた!」と言いたくもなるよ。

3時間半もある舞台なのにアッという間に終わっちゃった・・・。気がつけば、後から部屋に来た人がいつの間にかDVDを観終わって居なくなってました。ああ、もう一度見たい!と思いながらも、いやいや、今日はこの後で37歳のベンを生で観るんですからね!

小さな窓しかない底冷えするような部屋で、半日近くジッとDVDを観ているなんて、遥々ロンドンまで来て何やってんだい!と、自分自身で突っ込んでしまいそうですが、いやいや、ここでしか観られないんだから、充分価値のあるロンドンの過ごし方ですよ。

古いV&Aのオフィシャルサイトのここに→アーカイブ紹介ビデオがありました。ちょっとだけベンのハムレットが登場します(6分過ぎたあたり)。そしてリストは、V&Aのこのページ→の中の「National Video Archive of Performance (NVAP)」にPDFとして掲載されています。日時と劇場しかデータがないので、気になる俳優がいれば、Wikiページと並べてチェックだっ!(そして観たい舞台があれば、渡英前にここにメールで「観せて!」とお願いしよう!)ベンだけでなく、きっと他にもお宝映像がひっそり埋もれてますよ。