ベン・ウィショーの舞台を観に初ブロードウェイ!【Part.1】March 2016

こちらのページ→でも書いていますが、昨年11月に「ドクター・フー」の第9シリーズと同時期にBBCで放送されていたドラマ「London Spy」。「スパイ」という言葉の響きにつられ、何となくiPlayerでダウンロードして見始めたら・・・これがハマってしまったんです!


劇場の客席に立つベン・ウィショー / GQより拝借

「スパイ・ドラマ?」なんて期待を軽く裏切り、実は切なくも美しいゲイ・ラブ・ストーリー。さまざまな「嘘」の下から浮かび上がってくる主人公ダニーとアレックスのラブ・ストーリーを、スリリングで詩的な映像で描いた素晴らしいドラマでした。

そしてダニーを演じたベン・ウィショーという俳優に目が釘付けにっ!無垢だからこそ傷つき、愛情を求めるダニー。そんな青年を、緊張感がありながら、人を魅了する繊細な演技で作り上げたベン・ウィショーという俳優に、すっかりハートを鷲掴みにされました!そうなんです、彼の事、今更ながらに知りました・・・。

すっかり彼に魅せられてしまい、年が明けても脳内がベン・ウィショー祭り(笑)そんな時、彼のブロードウェイ・デビューとなる舞台「Arthur Miller's The Crucible」が3月からニューヨークで始まると知り(えっ?どうやって知ったのかって?もちろんWikipediaですよ(苦笑))でも・・・5月にロンドンに行く予定を立てているんだよなぁ・・・ここで更にニューヨークってどうだよ!?行った事もないしさぁ・・・と、自制心を働かせながらも、チラッと劇場のサイトを覗いたら、オイオイ!チケット売ってるよっ!!うう〜ん・・・行っちゃう?人生初のニューヨークに!?

「ニューヨークへのフライトは直行便でなければ絶対ダメ!アメリカ国内での乗り継ぎなんて、もし便が遅れたら身動き出来なくなるぞっ!ベンが見られなくなっちゃうぞっ!」なんてダンナのアドバイスに従い、航空券を探してみたけれど直行便は高いよぉ・・・。「ニューヨークはホテルも高いぞっ!」と更なるダンナのアドバイス。でもニューヨーク直行便利用で6日間、燃油サーチャージから税金までコミコミで10万円を切るツアーがあった!しかも天下のJTBっ!これなら何とか行けるぞっ!ただし航空会社は未定だっ!ホテルはCグレード未定だっ!さらにダンナと2名で申し込んだ時の料金だ・・・って、ダンナも行くのか!?「どうせだからブロードウェイを観に行こうっと。」ええ〜っ!?

JTBに問い合わせると、航空会社もホテルも「この中のどれかになります」と候補を教えてくれたので、ホテルの評判を調べて、これなら問題無しということで、そのツアーを申し込みました。うーん、遂にニューヨークに行くんだなぁ。


Arthur Miller's The Crucible / The New York Timesより拝借

そういえばアメリカは、ビザの代わりにESTAとやらを申請する必要があるんだよね?「はい、インターネットでESTAの申請はできます。ただし、特定の国に渡航されている方はESTAが取得できません。」ふ〜ん、アメリカは面倒だねぇ。で、その特定の国って、どこよ?「はい、シリア、イラン、・・・」え?・・・渡航してますけど・・・?シリアに2回も行ってますけど!!(汗)「2011年以降に渡航した場合はESTAが取得できませんので、直接アメリカ大使館に行ってビザを申請してください。」マジですかぁぁ!?

と、一瞬焦りまくりましたが、古いパスポートを確認すると、シリアを旅行したのはもう10年も前のこと(この旅行記に興味がある方はこちらへどうぞ→)あの頃はシリアも平和でした・・・。でも、当時からシリアとアメリカは国交断絶していたので、「シリアのビザが張られたパスポートでアメリカに入国できるのかな。」「アメリカなんて行かないからどうでもいいよ!」なんて笑っていたのに、まさかこんな日が来るとはね。

そして次に手配するのは当然ベンの舞台のチケットっ!でもブロードウェイのチケットってどうやって買えばいいの?とりあえず劇場のオフィシャル・サイトで販売されているけれど、「別会社のサイトに移動する」と書いてある。別会社って何よ?イギリスではチケットの転売サイトがあるけど、そんな感じ?うーむ、よく分からない。

ネットやガイド・ブックに書かれている「ブロードウェイのチケットの買い方」を読むと、劇場の窓口で買えとか、tkts(チケッツ)という格安チケット専門店に並べとか・・・あたしは格安チケットでも当日券でもなく、ベンのチケットをできる限り良い席でゲットしたいんじゃあ!!

そしてネットで検索をするといろんな販売サイトもヒットしますが、これを信用して良いのか見当もつかない・・・ということで、ここは超大手チケット販売サイトのThe Ticketmasterで検索してみると、サクッとベンの舞台がヒット!しかも3列目を売ってるぅ!・・・でも250ドルは高い(汗)ブロードウェイってこんな値段なの?それとも金額が上乗せされた再販チケットなの?

しかし友人は、ロンドンでのベネディクト・カンバーバッチの舞台「ハムレット」で、宿泊とパックにされたチケット(3列目)に5万円払っているしなぁ。「二度とないチャンスだよ!買っちゃえ!買っちゃえ!」と彼女を煽った自分としては250ドルで文句は言えない。

そんな訳で、通路脇だけど3列目のチケットを1枚選択して、さあ、お支払い!と進もうとしたら、「ちょっとぉ、そこを買われるとチケットが1枚だけ残るんだよ。そんな悲しい事やめてよぉ」なんて文句が表示がされて先に進めない。なんと、並びで売っているチケットを1枚だけ残して買おうとすると拒否されるのだ。マジかっ!私みたいに一人で観る奴だって居るだろ!?


劇場にはちゃんとベンの名前が!

とはいえ、売ってくれないものはしょうがないので、次は4列目のド真ん中の席を狙うと、ここでまたダンナの横槍がっ!「そこは止めておけ!アメリカ人の図体はデカイぞ!そんなアメリカ人が前の席に座ったら、あんたの身長ではステージが全く見えなくなるぞ!」でもさ、イギリスで座席指定のライブを観ても、そんな経験は無いよ。「アメリカ人はとにかくデカイんだよっ!イギリス人と比べちゃダメだっ!」

確かにイギリス人は割と小柄な人が多いです。それに舞台が行われる劇場を検索してみると、座席は狭そうだし、ステージもそれほど高くないし、客席も段差が緩そう。

という訳で、さらに後ろの5列目で通路横の席を選択。ついに支払いへと進むと、んっ?んんっ??手数料とか何とか上乗せされて、いつの間にか支払い金額が300ドル近くになってる!?ひ〜っ!Ticketmasterの手数料はバカ高いとは聞いていましたが、50ドル近く取られるなんてぇ(涙)でもベンのチケットを人質に取られているこの身では文句も言えない・・・。

と、悩みまくりながらもようやく購入したチケット。ところがっ!公演もスタートした3月のある日、そろそろダンナさんのために一番安い3階席のチケットを買おうと再びTicketmasterを覗くと・・・えっ?えええっ?1列目のチケットがズラっと販売されてる!?他の公演日も軒並み1列目を販売してる!!どっ、どっ、どういうコトっ!?しかもチケットは120ドル!これが正規の料金なの!?

ともかくゲットせねば!とポチッたものの、いや、反対側の席にしようかな、と優柔不断に座席選択に戻ると、うそっ!1列目の席がゴッソリとなくなっている!!いきなり焦っても、さっき選んだチケットがまだリリースされない!隣の席を選ぼうとしても例の「1席残すなよ!」ルールに邪魔され、もういいっ!と、前日の公演日のド真ん中席を選択っ!支払いっ!eーチケットを選択っ!ぜえっ、ぜえっ、買えたよぉ!

と、軽くパニックになりながらもゲットした1列目。舞台の1列目なんて観にくいと分かってますよ(苦笑)でもどうせ生ベン・ウィショーが観られるなら、少しでも近くで観たいじゃないですか。

でもeーチケットって、なにしろ心持たない・・・本当にこのチケットでベンが見られるの?と言うか、本当にこの舞台にベンは出るのかっ!?(おいおい!)だって、何しろ情報が無いんですよ。

今回の舞台「Arthur Miller's The Crucible」は1953年に劇作家アーサー・ミラーによって発表され、17世紀にアメリカ・セイラムで実際にあった魔女裁判を描いて、赤狩りやマッカーシズムで揺れる当時のアメリカに衝撃を与えた作品。これまでに世界中で再演され、映画にもなり、アメリカ人やイギリス人にとっては学校で必ず読むほどポピュラーな作品なのだそうです。ベン・ウィショー自身、今回演じるジョン・プロクター役は、学校で演じて以来、20年振りなんだって。

舞台監督を務めるIvo van Hoveは、同じアーサー・ミラーの作品「The View from the Bridge(橋からの眺め)」が絶賛され、ベンもこの舞台に感銘を受けて今回の仕事を引き受けたそう。そして共演は映画「ブルックリン」で今年のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた注目の若手女優シアーシャ・ローナン、そして映画「ホテル・ルワンダ」でアカデミー賞助演女優賞を受賞したソフィー・オコネード(「ドクター・フー」ファンには第5シリーズに登場するエリザベス10世でおなじみ)と、錚々たるメンバー。しかもアカデミー賞発表の時期も重なり、BAFTA受賞レベルのベンでは話題にもならないみたい(苦笑)それでもシアーシャのインタビュー映像で、リハーサルで彼女に絡んでいるヒゲ男は間違いなくベンっ!・・・だよね?ヒゲがモジャモジャすぎて自信が持てないけどさ。

さらにこの3月の公演が「プレビュー」だという事が、不安に追い討ちをかけてくる。

ブロードウェイの舞台には「プレビュー」と呼ばれる期間があり、公式な「オープニング」の前に舞台を実際に観客に見せ、その反応で手直しをしていくのだそうです。ミュージカルでは曲が丸ごと代わったりするし、その期間にはレビューも書いてはいけないのだとか。でもさ、それは公開リハーサルってコトなの??ちゃんと舞台をやってくれるの??まさか代役で済ませないよねっ!?

プレビューでも舞台はちゃんと上演するそうですが、それでも「オープニングは4月2日」なんて書かれていると、その度にドキっとさせられる。ああ、心臓に悪い。本当にベンが観られるのかなぁ・・・。もうドキドキだよぉ。


Ben Whishaw & Saoirse Ronan / The New York Timesより拝借

「アーサー・ミラーなら日本語で脚本が読めるでしょ?舞台の前に予習しておいたら?」と、またダンナからのアドバイス。そうか!そうだね!思いつかなかったよ!!さっそく邦題「るつぼ」を図書館で借りてきました。

召使のアビゲイルと一夜の関係を持ってしまった農夫ジョン・プロクター。彼を自分のものにしようとアビゲイルは村の娘たちを集め、彼の妻エリザベスに呪いをかけようとするが、その娘たちに次々と異変が。騒ぎになる村で、原因を問い詰められたアビゲイルは悪魔を見たと告白する。彼女たちに告発された村人たちが次々と裁判にかけられていき、そして追求の手はついにエリザベスと、彼女を守ろうとするジョンにまで・・・。

小さな共同体の中で、日頃の憎しみや恨みが、神や正義の名のもとに「るつぼ」のように人々を巻き込んでいく。その中で自分に誠実であろうとする人々が処刑へと追い詰められていく。皆が同じ方向を向いてしまった中で自分の良心に従うことの難しさと恐ろしさ、そしてストーリーに張り詰める緊張感で一気に読んでしまいました。いやぁ、こんな面白いとは予想外!これが舞台で見られるのか!でもジョン・プロクターって、ベンが演じるにはカッコ良すぎないか?(苦笑)しかしThe New York Timesに掲載されたベンのインタビューの中で、舞台監督のIvoが語っていましたが、これまで非常に男性的なキャラクターとして演じられてきたジョン・プロクターを、ベン・ウィショーが変えてくれるのを期待しているのだそう。おおーっ、そりゃ楽しみだぜっ!

でも最後には処刑されるジョン・プロクター・・・周りの劇場ではライオンが「心配ないさ〜」と叫んでたり、魔法の絨毯が飛んだりしているブロードウェイで、好きな俳優が首吊りになる舞台を観るのか(苦笑)

そんな期待と不安でいっぱいになりながら、ついにユナイテッド航空でNYへ!

「ロンドンより遠いのかぁ」とウンザリしていた長時間のフライトも、脳内ベン・ウィショー祭りの私のために(?)機内エンターテイメントが「007 Skyfall」に「007 Spectre」、そして「The Danish Girl(邦題:リリーのすべて)」と、ベン出演作3本立てでおもてなし。ベンの出演シーンばっかり繰り返し見ていればNYなんてあっという間だい!

【余談】帰国後、改めて「リリーのすべて」を映画館に観にいきました。するとダンナに「ベンの出番はあれだけっ?!あんたの機内モニターにいっつもベンが出ていたから、ベンが出っ放しの映画なんだと思っていたよ!」と怒られました(苦笑)その短い出演時間でリリーに迫ってキスばかりしてるベンはともかく、トランスジェンダーのリリーとその妻の夫婦の苦しみと愛情が美しく細やかに描かれた、とっても良い映画ですよ!まだ観てない方は是非ご覧ください!ベンはビミョーなルックスで登場しますが、まぁそれも可愛いかな。でもベレー帽姿には思わず機内食のワインを吹き出しそうになったけど。

ともかくっ!無事NYに到着し、翌日からさっそくベンの舞台です。そのためにはるばる来たんですから。


ついに来たぜ!Waler Karr Theatre!

ブロードウェイというところは、タイムズ・スクエアに劇場がずらりと並んでいると想像していたのに、実は脇道に点在してるんですね。今回の舞台が行われるWalter Karr Theatreもタイムズ・スクエアの隅っこの脇道を入ったところ。向かいの劇場ではジョージ・タケイの舞台(もう終わっていたけど)、後ろの劇場では「Chicago」と、それなりにブロードウェイに来たなぁと思わせてくれるロケーションですが、でも、ここはキャパが800人程度でとても小じんまりとした劇場。しかしチケットを見せて中に一歩入れば、真っ赤なベルベットの椅子に、装飾を施したクラシカルな内装。フレンドリーなスタッフ達が席に案内してくれる(案内してもらうほどデカくないんだけどね。)徐々に埋まってくる客席は、観光客から、シアター通なニューヨーカー、老齢の夫婦から、なぜか妙に多い男性二人組まで(苦笑)。そしてあちこちから「The Danish Girl、観た?」なんて会話が聞こえてくる。ベン・ウィショーのファン、多いぞっ!

そして8時、ついに幕があがると・・・あああ、目の前にベンがっ!ベン・ウィショーだあぁ!